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独自の道を拓き、 さらに大きく羽ばたいていく


The BISHU Jazz Orchestra 1st Live

尾州ジャズオーケストラ

2018.5.20[sun] at 尾張一宮駅前ビル「iビル」7Fシビックホール

青木 遥


 尾州ジャズオーケストラは2017年2月、プロサックス奏者平井尚之さんを中心に結成されたビッグバンドだ。愛知県一宮市を拠点とし、尾張一宮駅前ビル「iビル」などで週1回の練習を重ねながら、地域のイベントなどで演奏してきた。初となるワンマンライブの会場はiビル内の、普段は会議など多目的に使われているホールだが、照明を落として椅子やテーブルを配置して、お洒落な雰囲気の空間に。フリードリンクとおつまみが提供され、客席には開演前から楽しそうな声があふれていた。メンバーの知り合いらしい子ども連れの方から、中高年の夫婦や男性まで客層は幅広い。

 SEが始まり、一曲目「Just Friends」でライブがスタート。平井さんが横で見守る中、曲中ではトロンボーンが活躍。サックスは5人より多い大編成だが、楽しそうに演奏しているのがわかる。

 1曲目が終わると平井さんがマイクを手に取る。SEは一宮市内の中外国島という会社で使われている、昔ながらの低速で織ることで手織りに近い風合いを出すことのできる機械「ションヘル織機」の音だったのだそうだ。

 平井さんは以前から、吹奏楽経験者がジャズビッグバンドやアドリブソロに挑戦することで、学校卒業後も楽しく楽器が続けることができ、より楽しく充実した生活を送れるのではないかという構想を持ち続けてきた。その実現に向けて一宮市の近郊、岐阜県岐阜市を拠点に活動する岐阜市民ジャズビッグバンド「楽市JAZZ楽団」に自ら入団し、音楽監督で「熱帯JAZZ楽団」などで活躍するサックス奏者、野々田万照さんの指導を受けながらジャズビッグバンドについて学んでいた。

 自らのバンドを設立するにあたり、コンセプトとしたのが「尾州応援団」だ。愛知県北西部にある尾州と呼ばれる地区、特に一宮市とその周辺では、昔から織物生産がさかんだ。一時ほどの勢いではないものの、現在でも世界三大毛織物産地の一つに数えられ、ヨーロッパの有名ブランドのスーツ生地も作られている。プロとして専業となる前、地元の繊維業の会社に勤めていた平井さんは業界の現状に明るく、応援したい思いも強い。

 デザイナーの渡邉有希さん、副団長を務めるテナーサックスの渡辺敦さんらがコアスタッフとして加わってコンセプトを練り、それを伝える形をつくっていった。渡辺有希さんがデザインしたバンドのロゴは、ヘリンボーン生地のスーツの袖。下のボタンが外れているのは、飾りボタンではなく開け閉めできる「本切羽(ほんせっぱ)」の仕様であることを示している。このロゴを大きく入れたのぼりを、岐阜市にある小村屋幟店に依頼して制作した。またメンバーは、尾州織物の生地を使った手作りの蝶ネクタイやコサージュなどを身に着けてステージに立つ。

 当日配布されたプログラムも、渡邉有希さんのデザインでおしゃれに仕上がっている。飲食の提供をした飲食店Rockin’ Robinも含め、さまざまな尾州の産業とコラボしながら応援し、元気な「BISHU」を代表する存在を目指しているのだ。

 長めのMCがあって2曲目へ。公募で集まったメンバーには、吹奏楽部出身で初めてジャズビッグバンドに参加したという人から、楽市JAZZ楽団の現役・OBメンバー、元プロまでさまざまだ。人数の多いパートのメンバーは入れ替えをしながら進む。サックスアンサンブルから始まる「星に願いを」では次々とソリストが立った。メンバーの演奏技術レベルはさまざまだが、皆堂々と吹き切って戻っていくところからは、メンバーみんなが主役となるライブであることがよく伝わる。そして3曲目はトランペットが主役。それぞれのパートに見せ場がある。

 4曲目のバラード「Samantha」は平井さんのアルトサックスをフィーチャー。さすがの貫禄で歌い上げ、観客からも、待ってましたとばかりの大きな拍手が起こる。

 5曲目の後に休憩をはさみ、6曲目はBob Mintzer Big Bandのナンバー「One Man Band」。セットリストはスタンダードからGordon Goodwin、Bob Mintzerまで幅広いが、サポートメンバーを含むリズム隊の強力さにも支えられ、崩れることがない。後半からはMCで平井さんがソロを吹いたメンバーなどにも話を振り、話しぶりからメンバーの人柄も伝わってきた。ビッグバンドや人生のベテランもいるが、皆どこか初々しい。

 そしてこの日一番の盛り上がりを見せたのが8曲目の「Groovin’ Forward」だ。ピアニスト守屋純子さん作のこの曲を平井さんは気に入り、バンドのテーマ曲としてレパートリーに加えた。この日のセットリストの中でもかなり難易度の高い曲であることが観客にもわかったが、速いフレーズも吹きこなし、高い完成度で自分たちのものにしている。アルトサックス冨山街子さんも長いソロを淀みなく吹き切った。練習を重ねるだけでなく、テーマ曲としてメンバーが気持ちを一つにして臨んでいることが伝わって、会場の空気もぎゅっと一つになり、大きな拍手が起こった。

 さらに「Speak Low」はトロンボーンの川松久芳さんをフィーチャー。東京でプレーヤー、アレンジャーとして活躍していた川松さんの素晴らしいソロ。ステージを通して、このバンドに溶け込んで楽しく活動している様子も伺えた。

 アンコールは「Birdland」。平井さんもソロで登場し、盛り上がる中終了した。

 見送りに立つメンバーも観客も、しばらく興奮冷めやらぬ様子。バンドの一歩を共有できた喜びに満たされた空間だった。フリードリンクも盛り上げに一役買ったようだ。初のワンマンライブは、演奏だけでなくそのコンセプトの本格的なお披露目の場にもなった。コンセプトが大きく広がっているからこそ、メンバーの皆さんがさらに暴れ回っても、受け止める余地がありそうだ。

 折しも尾州では、若手テキスタイルデザイナーによってションヘル織機を扱う人材育成プログラムがスタートするなど、新しい動きも生まれている。地域のさまざまな産業や人とコラボレーションしながら、独自の道を拓き、さらに大きく羽ばたいていく、バンドの未来が見えるようなライブだった。


1.Just Friends

2.When You Wish Upon a Star

3.Backrow Politics

4.Samantha

5.Straight No Chaser

6.One Man Band

7.Night and Day

8.Groovin’ Forward

9.Speak Low

10.Night in Tunisia

AC.Birdland


青木 遥:

楽市JAZZ楽団こーもらんつ16アルトサックス担当。楽市結成時より在籍し、神奈川県川崎市に引っ越した後も続けている。現在は東京のビッグバンドでも活動中。





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